2024年のノーベル物理学賞に、人間の脳の神経回路を模倣した「人工ニューラルネットワーク(神経網)」を使って、機械が自分で学習する深層学習(ディープラーニング)の基礎を築いた米国とカナダの研究者2人が選ばれた。
近年、心と脳の密接な関係が明らかになっているが、心の要素を今日の人工知能(AI)は巧みに利用している。その先駆性に目を付けたのがノーベル物理学賞の選考委員らというわけだ。
日本の免疫学者で、ノーベル賞候補にもなった故多田富雄さんは著書『生命の意味論』(1997年刊)ですでに「(脳という臓器は)高度に発達したコンピューターなどという工学的システムをはるかに超えた超システムである」「心ほどの無限の可能性を宿すことができる」と脳の情報処理能力に着目していた。
さらに興味深いのは、身体の臓器を離れて「都市」の構成や機能の中にもこの「超システム」の働きを認めている点だ。例えば、スペイン・バルセロナの都市構成。歴史的に数カ国の支配を受けながら、複雑な旧市街地を段階的に成立させてきた。
多田さんはその「自己組織化と適応、内部および外部環境からの情報に基づく自己変革と拡大生産」「同一性を保つ」面は「高次の生命システムが持っている属性と共通」と指摘した。
今回の受賞研究の内容を見ると、AIの今後の展開で、心と脳との関係、文化現象もかなりのレベルで解き明かせるようになる気がする。興味津々だ。