世界遺産の宮島・厳島神社を有する広島県廿日市市で9月に開かれた「自衛隊ふれあいコンサート」に、市内の中学校の吹奏楽部が参加したことで、複数の市民団体が抗議したことが話題になっている。
産経新聞の報道によると、複数の市民団体が「無防備な中学生を実力組織に取り込む」機会になっていると指摘し、廿日市市と市教育委員会による「後援」に抗議したという。
コンサートは自衛隊員の家族らで構成する公益社団法人「自衛隊家族会」広島県自衛隊家族会が主催した。9月14日に市内のホールで開かれ、海田市駐屯地(広島県海田町)に所属する陸上自衛隊第13音楽隊と、地元中学校の吹奏楽部がコラボ演奏した。コンサートへの参加は、生徒や保護者の意向を確認し、尊重した上で行っているという。
この記事がヤフーニュースで取り上げられると、19日現在で2000を超えるコメントの書き込みがある。抗議に違和感を持ったとし、市民団体を非難するものが圧倒的多数だ。
自衛隊行事に生徒が参加することへの抗議は沖縄では日常茶飯事となっている。沖縄戦で住民の多くが犠牲になった経験から、自衛隊アレルギーが一定の県民に強く残っている。いずれのケースでも、当事者とは関係ないところで反対運動が行われ、左翼系市民団体や地元メディアが大きく騒いだという共通点がある。
筆者の知り得る限り、沖縄県では3つの事例がある。
2017年12月、陸上自衛隊第15旅団(那覇市)が読谷村で開催する「旅団音楽まつり」で予定されていた地元中学校吹奏楽部の出演が「村教育委員会の判断」で中止された。村教委は、自衛隊イベントへの地元中学生の参加に反発する一部村民の声に配慮したと説明した。
第15旅団は2010年ごろから、年末恒例のイベントとして県内各地で「音楽まつり」を主催。親睦と技術向上を目的に地元の中学・高校の吹奏楽部などがゲスト出演してきた。村教委によると、村民から「自衛隊のイベントに中学生が参加することは問題だ」と連絡が入り、参加中止の対応を迫られたという。
当時、出演予定だった中学生や父母らの落胆は大きかった。「せっかくの晴れ舞台に向けて日々精進してきたのに、すべてが台無しになった」など、中止を残念がる意見が大多数だったとされる。
08年には、航空自衛隊那覇基地のイベント「エアーフェスタ」への参加を予定していた那覇市内の小学校吹奏楽部の出演も中止になった。一部の父母や教職員組合が反対したためだ。保護者らの要望で参加する運びとなり、学校も参加を認めていたものが覆された。
新しい例では19年、宮古島駐屯地の「夏まつり」を巡り、ポスターに学校の許可なしに地元軽音楽部の名前が書かれたとして騒動となった。
沖縄では自衛隊の音楽隊は、吹奏楽部員に音楽指導をするなど、なくてはならない存在になっている。吹奏楽やマーチングバンドの歴史は自衛隊と米軍の存在抜きには語れない部分がある。戦後の米統治下時代には復帰前の沖縄で、琉米親善行事の一環として開催された米陸軍主催のバンドコンクールが開かれていたという記録がある。今では米海兵隊の第3海兵遠征軍音楽隊が県内で定期コンサートを開いており、地元の生徒らに大きな刺激になっている。
児童生徒を自衛隊や米軍の音楽に近づけさせまいとする過激な市民団体による抗議活動は、当事者にとって迷惑でしかないのだ。
(豊田 剛)