
金糸雀。漢字ではこう書く。カナリアである。随分と昔、とある場所で見掛けたことがある。そこはトンネル、いや地底と言うべきか。北朝鮮が韓国に向けて掘った「南侵トンネル」の中である。
韓国軍が南北軍事境界線の非武装地帯(DMZ)で発見したもので、ガイドに案内され地上の入り口から降りると、岩盤が剥(む)き出しの南侵トンネルに至った。見学者が行ける北側の最先端にある籠の中にカナリアがいた。
毒物に敏感であることから「毒ガス検知」の役割を担っているという。今はどうか知らないが、何とも物悲しかった。その衝撃が強かったからか、さえずる声を聞いた記憶はない。暗闇に置かれ「歌を忘れたカナリア」になっていたのかもしれない。
総選挙が始まり、選挙カーからウグイス嬢の声が響くようになった。ウグイスは「ホーホケキョ」と声高く、はっきりとそれと分かる。確かに熱戦にはウグイス嬢の呼び名が相応(ふさわ)しい。それなのに今選挙ではなぜか、カナリアを思い浮かべた。
それは「歌を忘れたカナリア」ならぬ、「保守を忘れた〇〇党」や「安保を忘れた××党」など忘れ物が多いように感じられるからだ。
童謡では歌を忘れたカナリアは、捨てましょか、埋めましょか、ぶちましょか、と手厳しい。むろん、いえいえそれはなりませぬ、象牙の船に銀の櫂(かい)で月夜の海に浮かべれば忘れた歌を思い出すと諭している。果たして各党はどうすれば忘れ物を思い出すだろうか。