トップコラム熊鈴付け登校の子供たち

熊鈴付け登校の子供たち

冬眠前の秋は、熊の出没が増える時期だ。東京のような大都会にいると、熊被害の恐怖は実感として分からないが、山間部の住民は恐ろしくて外出もままならない状況だという。熊は、北海道や東北など東日本で多く出没すると聞くが、西中国山地にもツキノワグマが生息する。単身赴任先の東京近郊から、妻が住む山口県に帰った。空港から家までの途中、山道を通る。

今年春、道路を横切る猿を目撃した。熊はどうなんだろうと思い、車で迎えに来た妻に「この辺でも、熊が出るの?」と聞いたら、「この道の周辺で出たと聞いたことないけど、先月、家からちょっと離れた別の場所で出たよ」と言う。

山口県内で、熊の出没が最も多いのは岩国市。今月10日までに136件の目撃が報告されている。これは昨年の2倍。先月だけでも59件に達した。襲われて負傷した70歳代の男性もいる。

岩国と言えば、強い甘みと濃厚な味わいで、お菓子の材料によく使われる「岸根(がんね)栗」で知られるように、山里には栗や柿の木が多い。冬眠前の熊がそれらを食べに、人の住む地域にも下りてきているのだろう。

筆者はツキノワグマが生息する宮城県で育ったが、子供の頃、熊の被害は聞いたことがなかった。しかし、故郷の町でも今年春、30歳代の男性が被害に遭っている。8年前に92歳で他界した父は晩年、所有する山に小屋を建て、炭を焼いたり、キノコを採ったりして、山暮らしを楽しんでいた。その時は、熊鈴(熊よけ鈴)を腰にぶら下げて、熊に遭遇しないよう注意を払っていたこともあって、危険な目に遭ったと聞いたことはなかった。

山に住む人が減って、人里と熊が住む奥山の間の“緩衝地帯”がなくなってしまったことが熊の出没を増やしているとの指摘がある。今、岩国市の山里では、大人はキノコ狩りを諦め、小学校児童は、ランドセルに熊鈴を付けて登校している。

(森)

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