韓国が喉から手が出るほど欲しがっていたノーベル賞を獲得した。小説家・韓江(ハン・ガン)氏が「文学賞」を受賞し、アジア人女性としては初となった。真に慶賀に耐えない。
韓国は過去に金大中元大統領が「平和賞」を受けたことがあったが、これは「金で買ったもの」(北朝鮮への莫大な支援と引き換えに実現した南北首脳会談による)と一部では揶揄する声も聞かれ、「政治的立場に左右される平和賞は数のうちに入らない」と酷評されていたから、念願のノーベル賞第1号とも言える。もちろん韓国では「2つ目」のノーベル賞とカウントしているが。
しかし、ノーベル賞は「科学分野で受賞してこそ価値がある」として、物理学賞や化学賞が待ち望まれていた。今回、科学分野ではなかったものの、文学賞も立派な誇るべき賞である。特に韓国語という欧米の言葉には訳しづらい言語をよく評価してもらったという感想が韓国では出ている。
ところが、せっかくの待ちに待った受賞なのに、韓国内では冷めた視線も見受けられる。朴槿恵大統領時期に「ブラックリスト」に挙げられた韓江氏は、李承晩大統領時期、済州島で多数の住民が虐殺された「四・三事件」(『別れを告げない』)や、1980年の「光州事件」(『少年が来る』)などを題材にした作品を書いている。これらの事件が韓国内での左右理念闘争の焦点となっており、韓氏は左派の視点で描いていることから、小説家の崔碩栄氏は「X」で韓国現代史の解釈について「世界へ左派の歴史観が広がるだろう」との危惧を示す。これは保守陣営に共通した懸念だ。
この感覚は例えて言えば、大江健三郎氏が文学賞を受賞した時の日本保守論壇の雰囲気と言っていいだろう。
さらに崔氏は「いずれ日本統治期をテーマにした小説を書くんじゃないかと思う。その破壊力は計り知れない」と予想する。「慰安婦」や「徴用工」が左派の視点で書かれれば、「少女像」の比ではない影響力を持つ可能性がある。
一方、今年の(数に入らない)「平和賞」は日本の「被団協」が受賞した。被爆者からなる全国組織で、核兵器廃絶を訴えてきた。これはこれで喜ばしいことだが、ノーベル賞、特に平和賞や文学賞が特定の理念傾向から抜け出せなくなっているのを表しているようで、今後、ノーベル委員会のあり方への疑義がさらに膨らんでいくだろう。
ともかく、悲願の韓国の受賞、今年も受賞名簿に上がった日本、ともに“めでたい”ことではある。