パレスチナ自治区ガザでイスラム組織ハマスの軍事攻撃に伴うイスラエルとの武力衝突が始まって1年が経つ。人質解放と停戦を呼びかける交渉は難航を極め出口を見いだせないが、この中であるパレスチナ人医師の動向が注目されている。
イゼルディン・アブエライシュ博士だ。同氏は2009年のイスラエル軍による攻撃で3人の娘と姪を一瞬にして失っている。イスラエルの病院で働いていた同氏にとってはまさかの仕打ちだった。
周囲は「きっと復讐心に燃えるだろう」と確信したという。しかし、これに対し同氏は報復を求めることをせず、むしろ「私の娘たちが最後の犠牲者となりますように」と憎しみを越えて対話と和解の行動を始めた。
17年の来日時には「憎しみを乗り越えよう」と大阪、広島、東京各地で講演を行い、非戦を訴えた。自身の体験をつづった著書『それでも、私は憎まない』は全世界の20以上の言語に翻訳されている。
とはいえ「言うは易く行うは難し」で、これを疑問に思う方も多いだろう。だが、同氏はイスラム教の信仰から怒りや憎しみを抑える寛大さや勇気を得たと強調。「死んだ娘たちは戻らないが、悲劇を善なる大義のためにどう生かすかを考えた」という。
アブエライシュ博士はガザ衝突1周年を機に、改めてこのメッセージを伝えるため来日していた。著書は映画化され、日本でも今月、上映が始まった。悲劇を繰り返さないための、小さいが大きな一歩だろう。