トップコラム【上昇気流】「砂山」の向こうに

【上昇気流】「砂山」の向こうに

横田めぐみさんの60歳の誕生日を前に、思いを語る母の早紀江さん=10月3日、川崎市

海は荒海 向こうは佐渡よ――。誰もが知る童謡「砂山」の出だしである。美しい旋律とともに砂山とその向こうに広がる日本海が、絵のように浮かんでくる名曲である。第1節の終わり「お星さま出たぞ」から、一番星が光る海の夕景を思い描く人もいるだろう。

1922年、新潟で開かれた童謡音楽会に招かれた北原白秋は、地元の小学生らから新潟にちなむ歌の注文を受けた。そこで市街地にほど近い寄居浜を訪れ、そこで見た情景からこの歌の着想を得た。それに中山晋平が曲を付けた。

寄居浜にはこれを記念して歌碑が立っている。しかしこの寄居浜は、日本人にとって痛恨の浜でもある。

77年、寄居中学1年の横田めぐみさんが、下校途中、北朝鮮の工作員によって拉致された。浜から700㍍ほどの所だ。その浜に立てば、海のかなたにめぐみさんが連れ去られた国がある。

めぐみさんはこの5日に還暦を迎えた。産経新聞の「探訪」で、弟で被害者家族会代表の拓也さんが、子供の頃、めぐみさんと海水浴や魚釣りなどをした寄居浜を訪ねている。そして「鳥なら飛び、魚なら泳ぎ、被害者を助けに行きたいと言っていた親世代の気持ちがよく分かる」と語っている。

2020年、父親の滋さんが亡くなり、母親の早紀江さんも88歳。集会では「もう時間がないんです」と訴える。被害者の家族だけでなく、めぐみさんら被害者も年を重ねていく。被害者の救出は時間との戦いとなっている。

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