【上昇気流】ロンドンの漱石と焼き栗

栗ごはん

取材で訪ねた長野県軽井沢。ススキの穂が風に揺れ秋の到来を告げていた。旧近衛文麿(このえふみまろ)別荘へ通じる林の中の小道には栗の実が落ちていた。ぱっくりと開いたイガの中に文字通り栗色の実が覗(のぞ)いている。

子供の頃、秋になると山に栗拾いに行くのが大きな楽しみだった。だから、つやつやした実を見ると楽しい気分になる。狩猟採集生活を送っていた縄文人の血が目覚めるのだろうか。

秋の味覚、栗はスイーツに使われ、栗ご飯も美味(おい)しい。パンパンに張った栗の実は、形の美しさが食欲に直結する。

とりわけ日本人は栗が好きなようだ。栗を使った和菓子は数知れない。栗の実を載せた洋菓子モンブランも人気が高い。

国内の栗の産地では、京都府の丹波地方が有名だ。山がちのこの地方では、かつて年貢はコメの代わりに栗で納められた。『延喜式(えんぎしき)』には、丹波栗が朝廷に納められたことが記されている。NHKの「美の壺」で、100年以上続く栗農家の3代目、山内善継さんが、栗そのものの良さを最も味わうことができるのは「焼き栗以外にありません」と語っていたのはちょっと意外だった。

焼き栗は日本ではほとんど見ない。むしろヨーロッパのロンドンやパリ、ローマの街頭の焼き栗屋が冬の風物詩となっている。欧州人は栗の美味しい食べ方をちゃんと知っている。ロンドン滞在中の夏目漱石は、風情を感じたようで俳句に詠んでいる。「絵所(えどころ)を栗焼く人に尋ねけり」「栗を焼く伊太利人(イタリーじん)や道の傍(はた)」。

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