次期首相を実質、決めることになる自民党総裁選が告示され、今月27日投開票に向けた選挙戦の火蓋(ひぶた)が切られた。女性2人、40代2人を含む9人が立候補した。総裁選が、党内政治家の人材の層と幅を示し、多くの候補者らが自身の政権構想について国民に訴える機会をつくったのは、派閥解消がもたらした功の側面だ。
岸田文雄首相が不出馬を発表したのを皮切りに告示日まで、立候補の前提条件となる20人の国会議員の推薦人集めを巡り、党内では水面下で激しく、個々の議員の奪い合いが行われた。その様相は熾烈(しれつ)を極める権謀術数そのものであった。
要となってきたのは、政治のトップを輩出させる元老議員として「キングメーカー」と呼ばれ、党内主流派で岸田氏を支えてきた麻生太郎元首相・副総裁と、非主流派の菅義偉前首相・前総裁である。それぞれ次期総裁のメーカー足らんと、隠然と勢力争いを行ってきた。
現時点での両者の戦いは、世論調査が示す国民と党員人気でトップを争う小泉進次郎氏を推す、菅氏が優位だ。麻生氏自身が長を務める麻生派所属の立候補者、河野太郎氏は人気が凋落(ちょうらく)している。
世論調査で人気のトップを争うもう一人は石破茂氏であるが、麻生内閣(2008年―09年)末期において、首相を支える立場の現職農林水産大臣でありながら、「麻生おろし」に加担した苦い因縁など、両者の確執から、麻生氏が石破氏をキングに推し上げる構図はない。
第2次安倍、菅、岸田の各政権で長年、常に主流にあった麻生氏が現在、岐路に立たされている。世論調査で人気3位の候補者、高市早苗氏を総裁選の本選で2位以内に滑り込ませ、1位と2位による決戦投票で、自身の及ぶ範囲の力を振り絞って、高市氏を当選させる以外に、キングメーカーとして残された選択肢はない。
立候補者多数の今回は特に、本選で過半数を得票して当選者が生まれる可能性は低い。本選でのトップツーが、決選投票を行うことになる。そこに残るのが小泉氏と石破氏になれば、決選投票を待たずに、麻生氏がキングメーカーとなる道は潰(つい)える。
それはすなわち、9月20日に84歳の誕生日を辰年の年男として迎える麻生氏が、一気に政界引退の引導を渡されることになりかねない事態となる。麻生氏としては、是が非でもその悪夢を避けたいところだ。
菅氏VS麻生氏、政界に渦巻くこの自民党内キングメーカーの争いからは、小泉進次郎氏VS高市早苗氏、すなわち、若武者か女性初か、という戦いが総裁選の底流となろう。公示前、劣勢に立たされた麻生氏の巻き返しが見ものだ。
日本では自民党総裁選、米国では大統領選が佳境を迎える今日、中国軍機は日本の領空侵犯を行い、ロシアは日本海で中国海軍が合流する海軍演習を開始した。海軍演習は、太平洋や北極海をはじめ広範囲な海域で初めて同時に行い、400隻の艦船、120機の航空機、兵力9万人超を動員する大規模演習の一部。
日米それぞれの政治トップは、こうした脅威に、それぞれの姿勢が試される。新しい総裁は、何よりも日本を背負って立ち、国民の安全を護(まも)る使命に立つ人物であることも大きな条件だ。(駿馬)