毎年のように「過去最悪」が繰り返されているのが、ブラジルの森林火災だ。世界最大の湿原、同国中西部のパンタナルで今年発生した森林火災は過去最悪に達したという(小紙7月20日付)。
リオデジャネイロ連邦大学の気象研究所の報告によると、今年初めから7月11日までに火災で喪失した面積は37万2㌶。2020年の記録を約5割も上回ったという。20年の記録はパンタナル内の国立公園の何と8割。
そして同国のマリナ・シルバ環境・気候変動相は今月、上院の環境問題対応委員会の公聴会で、干ばつなどの異常気象が悪化すれば、今世紀末までにパンタナルが消滅する可能性があると警告した(小紙9月7日付)。
ブラジルは未曽有の森林火災や異常乾燥に襲われていて、2000近くの自治体が「重度の気候危機」に直面しているという。8月だけで6万8000件を超える森林火災が報告されたそうだ。
パンタナルは世界有数の生態系を持つ「動植物の楽園」。人類学者レヴィ=ストロースは1930年代にブラジルの奥地を訪れ、この時の体験を基に『悲しき熱帯』(55年)を著した。パンタナルのことも記されている。
飛行機から見た蛇行する川の様子を記した後、「地上に降りてみると、パンタナルは夢の景色になる。ゼブ牛の群れが、水に漂う方舟の上に避難してでもいるように、沈んだ丘の頂きに退避している」と情景が続く。この景観をなくしてはいけない。人類全体の問題なのだ。