立秋を過ぎ、処暑を迎えたが涼風は至らず、暑さが峠を越す気配も見えない。今年は黒潮が大きく蛇行して、日本列島の近くを流れ親潮を北に押し上げているらしい。そのために太平洋側の海水温度は、例年より5度以上も高くなり、台風が関東沖で発生している。日本の気候も亜熱帯化し、春夏秋冬が死語と化するのではと心配になる。
この猛暑の中で行われた全国高等学校野球選手権大会を見ていて、一番気になったのが選手はもちろん観客の水補給だった。
日本人1人が1日に使用する真水の量は、250から300㍑だそうだ。一方、世界保健機関(WHO)が定めた1人当たりの1日最低限必要な真水量は、7・4㍑と聞いた。何と日本人は約40倍の真水を使っていることになる。
多くの日本人は、水道の水を流しながら顔を洗い、洗面器に水を溜(た)めて顔を洗う人は少ないだろう。また歯磨きの後、コップに一杯ずつ水を汲(く)み口を漱(すす)ぐことはせず、水道の水を流しっぱなしでコップを使っている。水不足のアフリカや南米の国々ではあり得ない光景だ。
近頃いろいろなレベルの会議やシンポジウムの席で、ペットボトルに入ったミネラルウオーターがよく出る。国内産もあれば外国産もある。ほとんどの出席者はこの水を一口、二口飲んでいるが、そのまま机の上に残して席を去る。残された水は、他人が口を付けた水だから、ゴミとして処分される。
私はペットボトルに残った水は必ず持って帰ることにしている。地球上では10億人以上の人が水不足で苦しみ、真水が飲めなくて、毎年数百万人が命を落としているとも聞く。
訪日したある中東の大統領が、外務省の案内役に質問した。「あの蛇口という、右に回すと水が出る道具はどこで買えますか」と。「あの蛇口だけでは水は出ません。多くのインフラシステムが必要です」と真面目に答えた。すると大統領は「そのインフラシステムと蛇口を、ぜひ日本の土産に買いたい」と。
日本のレストランでは、水は無料でサービスとして出る。外国では、ワインより水の方が高い国さえある。日本では水が「タダ」なのは当たり前と思っている。もっと真水を大切にし、日本のありがたさを教える必要がある。
妻も子供達も、田舎に帰郷して3、4日もすると、肌がスベスベしてくると田舎の水を絶賛する。一緒に帰郷していた孫娘が4歳の時、食卓で「飲み物は何がいい」と聞いたら「お水」と答えたのには驚いた。
東京での食事の時は、水と言ったことはなく、必ず「オレンジジュース」と言っていたのに。(呑舟)