先日、北西部の軍事境界線近くを巡る観光ツアーに参加した。境界線は北緯38度線付近を東西に走る通称「38度線」。北朝鮮との戦争がまだ休戦状態にあることを実感させる。その日は日本人向けのバスに乗って行ったが、現地には欧米や中国の団体客も多く来ていた。ここが観光地化されているのは、分断が固定化し、ある意味で安全だから。個人的には10年ぶりの訪問だったが、これという異常もなく、時が止まっているように感じられた。
一方で新しい体験や驚きの発見もあった。境界線の南側にある民間人統制区域を流れる臨津江をまたぎ、ゴンドラが運行していたのだ。新型コロナの感染拡大による3年間の中断があり、運行はまだ実質2年くらいだという。片道7、8分で、上空からは臨津江の様子や戦争で爆撃された橋桁と復旧された鉄橋が、これまでと異なる角度で見えた。ただ、終点エリアからは山が邪魔し、北朝鮮側がより近く見えるわけではないのが残念だったが。
そしてゴンドラ駅近くにある公園の一角に双子の慰安婦像が設置されていたのにはギョッとした。「統一に向かう平和の少女像」というタイトルの日本語説明文もあり、2体のうち1体はいずれ北朝鮮に設置されるのだとか。「こんな場所にまで」と思っていると、像のすぐ横にある椅子に座って喜々として記念写真を撮る日本人が何人かいた。38度線で遭遇した唯一の異常が、観光地に巧みに刷り込まれた「反日」だったとは…。(U)