「いいかげんな」ベテラン医師

最近、顔にできたイボが大きくなったので、皮膚科を受診した。近所には、皮膚科が二つある。一つは高齢の男性医師が院長を務めるクリニック。以前、かぶれか何かでお世話になったことがある。今どきのクリニックとしては珍しく、机の上にはパソコンがない。建物は古び、受付窓口には高齢の男女が座っている。

もう一つは、2年前に開業したクリニックで、40歳前後の女医が院長。若い女性たちが受け付けを担当し、診察室には、パソコンはもちろん、最新の医療機器が置いてある。2年前にイボができた時は、この女医に診てもらった。イボの治療は液体窒素で壊死(えし)させるのだが、彼女は痛みを伴わないスプレー形式を取った。でも、きれいになったとは言い難い。残ったイボが大きくなったのかもしれない。

今度は、高齢の医師のクリニックに診てもらうことにした。こちらは液体窒素に浸した綿棒を患部に当てる方法を取る。「お父さん、痛いでしょう」と聞くので、「全然平気。痛いの好き!」と答えると、「痛いの好きですか」と笑う。私より年上に見える医師から「お父さんはないよな」と内心思っていると、「1、2週間したらまた診せてください」という。

再び受診すると、「だいぶ良くなっているね。また綿棒当ててもいいけど、どうしますか」と聞いてきた。「先生を信頼していますから、お任せしますよ」と言うと、「いや、私はいいかげんだよ」と照れるので、「『いいかげん』と言える先生だから、信頼できるんです」と言って、「また綿棒当ててください」とお願いした。

そのやりとりを聞いていたベテラン看護師が「もう一度治療し、月末にまた来てもらったらいいですよ」と口を挟む。医師は「そうだね、お父さん。そうしよう。俺はいいかげんだから」と綿棒を患部に当てた。そのいいかげんな治療が功を奏したのか、その後、再受診する必要がなくなった。

(森)

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