“残酷暑”とでも言いたい日が続く中、友人と鰻(うなぎ)屋に入ったら、うなぎ百撰会が発行する『新作うなぎの落とし噺』という頒布用の冊子が置いてあった。「うなぎ百撰」に連載中の新作落語をまとめたものだ。
江戸っ子の大好物である鰻をテーマにした落語は少なくない。「鰻の幇間(たいこ)」は、幇間がお客にしようと町で浴衣姿の男に声を掛けたところ、鰻屋に連れて行かれ、食い逃げされた挙げ句に大事な下駄(げた)まで持って行かれるという話。
明治維新後の「士族の商法」の鰻屋編とでも言えるのが「素人鰻」。元侍が鰻を料理しなければならない羽目となり、鰻をつかもうと悪戦苦闘する。八代目桂文楽の十八番だった。
新作の鰻落語で面白かったのは、遊亭小遊作「願いごと」。ある修行僧が記憶力が良くなるように願をかけて祈ったところ、虚空蔵菩薩が天から鰻に乗って現れて「記憶力をつけるには、DHA(ドコサヘキサエン酸)と、EPA(エイコサペンタエン酸)を摂(と)ることなり」▼これを聞いた修行僧、わが意を得たりとばかりに「わかりました! その鰻を食べるんですね」。他愛ないが、時代を感じさせる。
この冊子では、古今亭志ん朝が好物の鰻断ちをしたという話も紹介されている。不遇時代の志ん朝が、東京・谷中のお寺の住職に、本尊の虚空蔵菩薩の命日の13日に鰻断ちをするように勧められ、その後ずっと食べなかったという。食べて良し断って良し。さすが鰻と言うべきか。