
米ホワイトハウスは4月、米航空宇宙局(NASA)に対し、月やその他の天体の標準時を策定するよう指示した。NASAは欧州宇宙機関(ESA)と共同で「ルナネット(LunaNet)」と呼ばれる枠組みづくりを模索しているようだ。
今後、複数の国と合同で月面ミッションが行われるようになると、共通の時間を決めておく必要が出てくる。米国には宇宙開発の主導権を握る狙いがある。中国は宇宙ステーションの独自運用など、米国に対抗心むき出しだ。
時間を制する者は地域の支配力を得ると言えるが、月の標準時制定を巡る米中の攻防が激しさを増すだろう。地球の標準時を基につくるか、月を基準に新たな時間体系をつくるのかはまだ決まっていない。
時間が流れる速さは重力の影響を受け、重力が弱い月の時間は地球より速く流れるからだ。地球上では現在、セシウム原子の共鳴周波数が「秒」の基準だが、次世代の基準になるとの見方が有力な光時計の開発では日本に一日の長がある。
ところで理論物理学者のカルロ・ロヴェッリ著『時間は存在しない』(NHK出版)によると「宇宙全体に共通な『今』は存在しない」「(時間の知覚について)わたしたち自身が一役買っていた」とある。
人は年を取るほど1年を短く感じるが、最近の猛暑で屋内に居ると逆に1日はいやに長い。時間というものは不思議だ。月の標準時設定への取り組みが、宇宙時間の概念拡大につながるか。