【心をつむぐ】精誠を尽くして綴りたい

先日、大学時代の知人から、思いも寄らない知らせが届いた。定期健診で胆のうガンが見つかり、「余命1年余り」と宣告されたという。メールや電話では、疲れやすくなったということだったが、それがそんな深刻な状況になっているとは思いもしなかった。電話口の声は学生時代そのままで、元気はつらつの姿が想像され、病魔の猛威など微塵(みじん)も感じとれなかった。

死が現実となった彼からある願いを託された。「新たな永遠の旅立ちを前にして、追悼文を寄せてもらえないか」とのことだった。彼の娘さんからも「学生時代に出会ったいきさつや、当時の父の様子を知らせて下さい」とのメールもいただいた。

それを綴(つづ)れるのは「自分しかいない」と決心し、現在、入学当初からの彼との出会いを綴っている。彼とは歳違い、卒業後の進路相談はじめ、仕事で行き詰まった時など、折々に触れて彼に寄り添うように努めてきた。

書き始めに当たり、新鮮な感覚もよみがえってきた。ほとんどの新入生が素っ気なく過ぎ去っていく中で、彼だけが足を止めて拙い私の話を聞いてくれた。その時の澄んだ彼のまなざしがとても新鮮だったことを今もはっきりと思い出される。2人の出会いは単なる先輩、後輩の関係のみならず、まるで長年共に生きてきたような、かけがえのない“兄弟”だったように思えてくる。彼の新たな旅立ちにどれだけの言葉で贈れるか、精誠を尽くして綴りたい。

(仁)

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