クライマーで山岳写真家の平出和也さんと中島健郎さんが、パキスタン北部のカラコルム山脈にある高峰K2(8611㍍)で登攀(とうはん)中、滑落し、帰らぬ人となった。場所は西側の未踏壁で、現場は標高7000㍍付近だという。
滑落したのは先月27日で、空からも地上からも救助が困難で、30日に救助活動が打ち切られた。平出さんも中島さんもフランスのピオレドール賞の受賞者。テレビ番組での放送が何度もあり、山岳カメラマンとしての仕事も立派だった。
2018年2月にNHKBS1で放映された「銀嶺の空白地帯に挑む~カラコルム・シスパーレ~」は、17年8月、北東壁から初登攀した感動的な記録で、2人はカメラで撮影し合っていた。
トップを行く相棒をザイルで確保しつつ撮影するのは、一人二役で至難の業だったに違いない。滑落の状況は伝えられていないが、片方が撮影していて確保に失敗し、巻き込まれたのではないのだろうか。
平出さんには昨年2月に出版した『What’s Next? 終わりなき未踏への挑戦』(山と渓谷社)という著書があった。次は何か。未知の世界にあったのは戻ることのできない滑落事故。
アルピニズムの世界で記録は更新されていくが、不幸な出来事も付きまとっている。支えているのは科学的思考だが、顧みられることのなかったのが霊性トレーニングだ。西洋のガイドらは聖書に学び、日本の修験者らは祈りをもって山に入ったのだ。