ロシアのウクライナ侵攻からはや2年半になろうとしている。21世紀にもなって「力による一方的な現状変更の蛮行」が罷(まか)り通ろうとしている。ウクライナ支援疲れや停戦交渉などが取り沙汰されているが、国際社会はロシアの平和に対する罪を決して許してはならず償わせなければならない。インド太平洋地域においても軍事大国化した中国の力による一方的な現状変更の試みが、南シナ海、東シナ海で展開されており、極めて近い将来に武力による台湾併呑(へいどん)の危機が迫っている。
所謂(いわゆる)「台湾有事は日本有事」に留(とど)まらない。中国が台湾へ武力侵攻すれば、忽(たちま)ち米中戦争へと進み、近隣はもとより北大西洋条約機構(NATO)諸国をも巻き込んで第3次世界大戦になるのではと危惧される。それ故に、日米をはじめとする国際社会は、台湾海峡事態の未然防止を最も重要な課題と認識している。
外交・政治努力の展開と共に同盟国の軍事態勢強化、同志国との安全保障協力体制を構築して、侵攻に対する抑止力と対処力の拡充に余念がない。と同時に、抑止が破れた最悪事態を想定して台湾有事に関わる各種各様のシミュレーションを行っている。
一般的にシミュレーションとは、現存もしくは計画するシステムが想定する状況の推移に対しての有効性、欠陥を明らかにして問題解決、改善を図るために行われる。列国政府・国軍においては、想定する状況に対する構想、対処計画の適否と部隊の作戦能力評価、問題点の改善を狙いとして研究ウォーゲーム、図上・実動の軍事演習が行われているが、その内容は極秘として公開されることはない。知る由もないが、わが国の自衛隊でも当然行われていよう。
その一方で、幾つかの民間シンクタンク系のシミュレーションが実施されており、その概要と成果が一般公開されて国民の関心を集めている。
その多くは台湾海峡を巡る緊張の高まりから中国の武力侵攻直前までの日本政府の政策決定や対応処置に焦点を当てている。自衛隊の行動や作戦レベルの話に及ばないのは民間なのでやむを得ないが、日本の有事対処について数々の問題点が明らかにされている。
例えば、①武力攻撃事態等の認定プロセスと対処行動②同志国との連合態様と集団的自衛権の問題③台湾事態に呼応した北朝鮮、ロシアの挑発への対応④拡大抑止と非核三原則⑤有事所要兵力・継戦能力の不備⑥民間施設、能力の活用、徴用⑦中・台・韓在留邦人および先島諸島島民の退避⑧ミサイル攻撃に対する国民保護――など枚挙に暇(いとま)がない。
解決すべき問題点が山のように指摘されているのに驚かされる。その根源には、戦後の平和憲法の下で国民は国を守る義務もなければ戦争を考えることなく過ごしてきた点にあり、国は戦争の惨禍から国民を守る諸施策を忌避して防衛努力を怠ったツケが回ってきているのである。
今なすべきは、有事に至る残された時間は僅(わず)かであろうと、シミュレーションで明らかにされた問題点は直ちに検討を開始し解決へのアクションを取るべきである。
特に、徒(いたずら)にわが国の防衛政策を自縄自縛している憲法については、「憲法護(まも)って国滅ぶ」ことが無いように、早急に憲法改正もしくは解釈変更して効果的な防衛作戦を可能ならしめることが焦眉の急である。 (遠望子)