トップコラム【上昇気流】パリ五輪と『二都物語』

【上昇気流】パリ五輪と『二都物語』

英小説家ディケンズの作品に『二都物語』(1859年刊)がある。二都とはロンドンとパリのことで、フランス革命(1789年)を背景にした物語だ。パリ五輪の開会式のおぞましいパフォーマンスを観(み)て、この小説を思い浮かべた。

おぞましいとは、ルイ16世の王妃でフランス革命でギロチン台の露と消えたマリー・アントワネットに模したドレスの女性が「生首」を持って歌うシーンである。思わず目を背けてしまった。

二都物語は、他者の身代わりになってギロチン台に向かう英国人青年の話だ。ロンドンに住むフランスの亡命貴族が冤罪(えんざい)で捕らわれた人を救うためパリに戻り、逆に牢獄(ろうごく)に入れられる。その人の妻に思いを寄せる青年はそれを知り、容貌が似ていることを利用して牢獄で入れ替わる――。

ギロチン台はフランス革命期の1年余に約3000人の血を吸った。無辜(むこ)の民も少なからずいた。それを煽(あお)った急進派のロベスピエールもまた、断首台に消えた。

英国にも革命肯定論者がいたが、エドマンド・バークはこれに真っ向から異議を唱え、歴史と伝統を説き起こし革命の波及を防いだ。その書簡をまとめたのが『フランス革命についての省察』(1790年刊)で、バークは後に「保守思想の父」と呼ばれる。

二都物語はこの英仏の違いを象徴する。パリ五輪のパフォーマンスに喝采を送った人は革命派、それに憤慨した人は保守派か。これもまた二都物語と言えそうだ。

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