トップコラム【上昇気流】天皇とマスメディア

【上昇気流】天皇とマスメディア

明治天皇(Wikipediaより)

天皇がマスメディアと初めて直接対面されたのはいつだったのか。伊藤整著『日本文壇史1』(講談社文芸文庫)によれば、西南戦争(明治10年)の田原坂(たばるざか)の戦闘が政府軍の勝利に終わり、西郷軍の敗色が濃くなって以後の話だ。

天皇は第122代明治天皇(25歳)。対面したのは新聞記者の福地源一郎で、場所は京都だった。戦争に従軍した福地は、京都で旧知の木戸孝允(たかよし)と対面、戦況について語った。

その席で木戸は「天皇に戦況を報告したらどうか」と言った。福地は「新聞記者として天皇に戦況を報告するのは名誉のこと」と考え、京都に来られていた明治天皇に対面した(日時は不明)。

明治天皇と福地の2人だけだったとは考えにくいが、一介の新聞記者が天皇と直接対面するのは、日本史上初の出来事だった。対面は日本全体を驚かせた。「福地は日本一の新聞記者」と評価する人もいれば「政府におもねる御用記者」と非難するケースもあった。

いずれにしても、天皇との対面によって新聞記者の地位が高くなった。例えば同志社の学生だった徳富蘇峰(とくとみ そほう)は、将来は「福地のような天下第一の記者になろう」と考えた。

木戸は同年5月26日、45歳で病死した。9月24日には西郷隆盛が自害(50歳)し、戦争は終わった。西南戦争に言及することは多いが、そのさなか、日本のマスメディアが大きく成長する一場面があったことは知られていない。この対面は、歴史の面白さの一端を示していよう。

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