パリ五輪のマスコットは「フリージュ」という名前で、赤い三角形の形をしている。自由の象徴とされるフリジア帽をモチーフにしたものという。歴代五輪のマスコットではちょっと変わり種だ。
この帽子、古代ローマで解放奴隷が被(かぶ)り、フランス革命では職人や商店主らサン・キュロットといわれた階層の人々の象徴として使用された。どこかで見たような気がするという人も多いだろう。そう、ドラクロワの有名な絵「民衆を導く自由の女神」の女神が被っている帽子である。
三色旗を掲げて人々の先頭に立つ女神マリアンヌは、フランスを擬人化しているという。露(あら)わな乳房は母性、すなわち祖国を、フリジア帽は自由を象徴している。
西洋絵画で神話やキリスト教をテーマにしたものなど、何気ない表現の中に深い寓意(ぐうい)(アレゴリー)が込められていることが多い。その伝統は近代のロマン主義の頃まで連綿と続いているのだ。
五輪でマスコットが登場するのは、1968年のフランス・グルノーブル冬季大会が最初。過去の五輪では80年モスクワ大会のクマをモチーフにした「ミーシャ」、88年ソウル大会のトラのマスコット「ホドリ」などが印象に残る。動物が多いのは、やはり愛嬌(あいきょう)があるからだろう。
2021年東京五輪の市松模様の「ミライトワ」は残念ながら印象が薄かった。三角帽子をマスコットにするフランスは、やはりそこに国の誇りと原点を感じているということなのだろう。