
劇作家シェイクスピアは「オクシモロン」の達人だったという。オクシ(賢い)とモロン(愚か)を組み合わせた矛盾語法で、英文学者の井出新さんが著書『シェイクスピア、それが問題だ!』(大修館書店)で紹介している。
「憎みながらの恋、愛しながらの憎しみ」など『ロミオとジュリエット』から多数の例を挙げ、『マクベス』から「きれいは汚いで汚いはきれい」の事例を挙げる。この台詞(せりふ)は、価値観の転倒を表現した言葉だ。
ドラマの冒頭に出てくる魔女たちの予言。マクベスは優れた指揮官だが、内面は空虚で、そこを埋めるために魔女らの言葉にすがり、妻の力にも頼って、魔女らの促す王位簒奪(さんだつ)を成功させる▼だがマクベスは、その後次々起こる破綻を逃れようと、偶然にすがるが、破局へ向かう。評論家福田恒存の『人間・この劇的なるもの』(新潮社)によれば、マクベスのような生き方は「エリザベス朝時代における一般イギリス人の、かなり普遍的な生活態度」だった。
ドラマの基になる事件も実在し、政治指導者らが同じ過ちを繰り返してきた。魔女たちの台詞で思い浮かぶのは、性的少数者を巡る「LGBTイデオロギー」だ。伝統的な家庭観や道徳観を覆そうとする。
その思想的ルーツを探ると、マルクスとエンゲルスの『共産党宣言』にたどり着く。宗教と伝統文化の破壊を目的にしているからだ。彼らは自らの共産主義を「妖怪」と呼んだ。魔女と符合している。