
小紙17日付によると、東北大などの研究グループは、負傷した心臓の血液循環を3分以内で再開させるシステムを考案し特許を取得した。
その手順は、緊急の蘇生とともに全身に血液を送る左心室に人工ポンプを装着。ポンプと大腿(だいたい)動脈を結ぶ送血ルートを確保し、心臓の循環機能を再開させる。心臓停止から脳死までは3分とされるが、そのタイムリミットの壁をついに突破した。
血液が循環することは300年ほど前から知られており、後に、血液の巡りが体内の細胞同士の相互作用を促進させ、生命維持を図っていることも分かった。身体の精妙な仕組みの中心に血液がある。
科学者の寺田寅彦は「血液の化学成分は驚くべき精密さをもって恒同に保たれている。ちょっと労働でもして血液中の水素イオン濃度がわずかに一億分一だけ増すとすぐ呼吸が忙しくなって血液中の炭酸ガスを洗滌させる」(「柿の種」)とその驚異を説いている。
ただ、一周の巡回は約30秒と速く制御は難しかった。今回特許を得たシステムが実用化すれば、災害発生時などの多数の傷病者に対し治療の優先度を決めるトリアージなどの手法も、ずいぶん洗練されよう。
血液は合理的な円環運動を展開し、生命の原理を体得しているように見える。寺田は続けて「人間の社会もこのくらい有機的になって、全系統の生理に有害なものを自働的に駆逐するような機巧が具わっているといいと思う」と警世の一文も忘れない。