トップコラム【上昇気流】今は昔、集金サギ

【上昇気流】今は昔、集金サギ

新聞やテレビで詐欺事件が毎日のように報じられる。偽の儲(もう)け話を持ち掛ける投資詐欺からフィッシング詐欺、そして今も絶えない振り込め詐欺。手口はどんどん巧妙化し、警察とのいたちごっこが続く。

気流子にも時々フィッシングメールが送られてくる。部屋の中でパソコンのキーボードをたたき、気軽に詐欺メールを送っている送り主の姿を想像すると、ネット社会がもたらした闇の深さを思わざるを得ない。

エッセイスト、佐川芳枝さんの『寿司屋のかみさんおいしい話』(講談社文庫)に「集金サギといたずら電話」という一編がある。かつて寿司(すし)店の多くは、出前の料金を寿司桶(おけ)の回収時に集金していた。それに目を付け客が食べ終わる頃を見計らい、店員に成り済まして集金する詐欺が横行した。

佐川さんがご主人から修行時代の話として聞いたものだ。「そんな手間のかかることをして、危ない橋を渡るより、まともに働いた方がお金になるだろうに」と思ったという。

こんな詐欺が多かったのも、出前の集金は後で行うという習慣があったからだ。ある面、長閑(のどか)な感じがしないでもない、今は昔の話である。

ピザのデリバリーなどは盛んだが、客と店の信頼関係で成り立つ料金後払い式の出前は、今では珍しい。「世の中がせちがらくなってくると、こういう昔ながらのシステムは、少しずつやり辛くなる気もする」と佐川さんは書いている。日本独特の習慣が廃れるのは、やはり寂しい。

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