「資料を見るために頭をわずかに動かしたことで、弾が右耳に当たるだけで済んだ」――。米ペンシルベニア州バトラーで演説中に銃撃を受け負傷したトランプ前大統領は、ニューヨーク・ポスト紙のインタビューでこう語った。
「私は死んでいるはずだった。病院の医者は『奇跡だ』と言った」という。確かに映像を見ると、トランプ氏は銃撃の直前、頭を1センチか2センチ左側へ傾けている。それがなければ、銃弾は顔面に命中していた。
この事件で思い出すのは、1981年に起きたレーガン米大統領の暗殺未遂事件と2年前の安倍晋三元首相の暗殺事件である。
レーガン氏は胸部に銃弾を受けていたが、心臓をわずかに外れて一命を取り留めた。これも奇跡だった。一方、安倍氏の場合、警備の不手際など何か仕組まれたのではないかと思うくらい悪いことが重なった。
英BBCによると、トランプ氏を銃撃したトーマス・クルックス容疑者は、130メートルほど離れた建物の屋根の上からライフル銃で狙撃したようだ。射殺された容疑者が、どれほど銃の扱いの経験を積んでいたかは分からない。ただ映像を見ても、かなり正確に狙撃できていたことは明らかだ。
安倍氏の事件では、今も山上徹也被告の手製銃による銃撃は空砲で、実は隠れたスナイパーがいたのではないかという疑問がくすぶっている。今回の事件は、スナイパー説が荒唐無稽な陰謀論として片付けられるものでないことを示している。