箱根登山電車はふもとの箱根湯本駅から中腹の強羅駅までの8・9㌔を40分で走る日本有数の山岳鉄道だ。今月中旬から7月中旬にかけて路線沿いのアジサイが見頃となり、この時期は“あじさい電車”と呼ばれる。
この鉄道は四季折々、違った表情で迎えてくれるので、何度旅しても楽しい。強羅に別荘のあった作家の北杜夫は、長編小説『楡家の人びと』の中で自然豊かな箱根を繰り返し登場させた。
今月半ば、この電車で旅したところ、アジサイの花は白から薄緑色になったところだった。アナウンスによると、電車は急坂を上る時、3車両の場合には前と後ろで3㍍の高低差ができる。
中腹ではカーブが多く、半径30㍍の所もあり、車両を短く設計しているという。スイッチバックも何度かあったが、不思議な感覚に陥ったのは、塔ノ沢駅を過ぎて出山のスイッチバックに着いた時。
早川橋梁(きょうりょう)を渡って前に進んでいたのに、その橋が眼下に見えたからだ。最も景色のいい場所で、電車はしばらく停止していた。地図で確認してみると、上り坂をUの字に走っていたため橋は下に見えたのだ。
さて、アジサイはあちこちで見てきたが、最も印象に残る景色は、福島県の裏磐梯にある五色沼のツルアジサイだ。アカマツの大木によじ登り、長さ20㍍以上にもなる。見たのはスノーシューで歩いた冬だったが、花がドライフラワー状になって残っていた。花は今、見頃を迎えていることだろう。