5月20日、台湾において頼清徳新総統の政権が発足した。1996年に総統の直接選挙が始まって以来、一つの政党が3期連続で政権を担当するのは初めてのことだ。
一方で、立法院の選挙では頼総統の率いる民進党は少数与党になり、議席数では国民党が最大議席数を獲得した。しかしその結果は台湾併合を意図する中国共産党を支持する民意を表すものではなく、過去2期の民進党の経済運営に関する評価とみるべきだろう。
頼総統は就任演説で、蔡英文前政権の現状維持路線の継承を強調していた選挙戦の無難な表現から一変して、中華民国(台湾)と中華人民共和国が別の国家であると明確に主張し、台湾の主権と民主主義の原則を強調、継続する中国の脅威を指摘した。
台湾の対中政策を所管する大陸委員会は5月30日、中台関係に関する世論調査の結果を公表した。それによれば中国が主張する「一つの中国」原則は7割以上が賛同しないと回答し、中国側による軍事的威嚇などの圧力には9割近くが反対した。頼総統が20日の就任演説で表明した中台関係を巡る立場は7割以上が支持した。
中国共産党は頼総統の就任演説に反発して、5月23~24日の2日間、台湾周辺で軍事演習を実施、頼政権に露骨な圧力をかけた。その内容は台湾を海上封鎖するという恫喝(どうかつ)であったが、台湾軍の防衛能力を踏まえると、有事の軍事環境では戦術的に実行不可能なものであり、情報戦、認知戦の類いだ。また中国の思惑と異なり、台湾の全ての政党を団結させた。親中派の国民党でさえ中国に自制を求めた。
これに先立ち、在日中国大使館は20日、座談会を開き、中国の呉江浩駐日大使が台湾との関係を巡り、日本政府が中国の分裂に加担すれば「日本の民衆が火の中に引きずり込まれる」と発言し、日本が米国に追随しないよう露骨に牽制(けんせい)した。中国の台湾に対する圧力は、基本的に方向性を変えず継続するだろう。頼新政権の前途は多難だ。日本は、米国に追随するだけでなく、また中国の脅しに屈することなく、台湾を国家として承認し、国際社会に正規メンバーとして迎え入れる先陣を切るべきだ。
中国の激烈な反応、例えば断交等を恐れることはない。国交は断たれても、日中の経済的相互依存関係は断絶不能だ。これを断てばより困るのは現に経済的困難に直面する中国だ。(遊楽人)