子は親に似てくると言うが、教えられたわけでもないのに、性格、行動特性、嗜好(しこう)に至るまで、親子は実によく似ている。年を取ると、それがいっそう顕著になってくる。
定年後、夕食の後、配偶者と散歩に出掛けることが多い。頭をやや前方に出し、背中を丸めて、両手を後ろに組んで、すり足気味に歩く姿は70代だった頃の義父とそっくりである。
4年前、義父の遺品整理をしていた時に未使用の最新の一眼レフカメラ、最新のノートパソコン、そして健康器具の類いが次々と出てきて、驚いたことがある。今、わが家は新旧、十数台のパソコン、健康器具が部屋を占拠し始めている。
行動遺伝学によると、遺伝の影響は身体的形質にとどまらず、学業成績、精神・発達障害、勤勉性・神経質・外向性といったパーソナリティー、犯罪や問題行動などすべてに及ぶということが分かってきた。
才能あるスポーツ選手や芸術家などには遺伝の影響が強く見られる。行動遺伝学の第一人者、エリック・タークハイマー氏は「ヒトの行動特性はすべて遺伝的である」と言ったが、育児能力、育児行動は親子で似てくるのかなと思うことがある。
最近、息子が9カ月になる娘の子育て動画をよく送ってくる。読み聞かせをしたり、子供が遊んでいるそばで仕事をしたり、時には膝抱っこでパソコンに向かっていることもある。
子供が騒いでも、あまり気にならないようだ。これは配偶者には見られなかった驚くべき育児態度である。
息子の場合、娘が誕生後に病院で過ごし、退院後は1カ月間の育児休暇を取得し、新生児期を一緒に過ごしてきた。男性も誕生直後から赤ちゃんと関わることで父性のスイッチが入り、愛着の絆が育つと言われている。育児能力は環境の影響が大きいようだ。子育てに関して言えば、息子は父親に似ず、正直安堵(あんど)している。