豊穣の国タイは、乗り物にしても多様だ。タクシーは通りだけを流す乗り合いタクシーもあれば、三輪タクシー・トゥクトゥクも、渋滞をものともせず縫うように走るバイクタクシーもある。電車にしてもスカイトレインと呼ばれる高架鉄道もあれば地下鉄もある。新幹線のような高速鉄道はまだないが現在、建設中だ。
そして何より運河を運航するエクスプレスボートがある。セーンセープ運河を利用してバンコクの東西を結んでいる。
初乗りは10バーツ(約44円)、1時間乗っていても20バーツ(約88円)程度と格安だ。ただ快適なクルーズツアーというわけにはいかない。セーンセープ運河は黒く濁ったドブ川だからだ。たまに桟橋から足を滑らせ、運河に落ちる乗客がいるが最悪だ。
きれいな水なら年中、夏のようなタイだから少し歩けばさっと乾く。しかしセーンセープ運河に漬かれば、白のワイシャツは黒く染まり、異臭もする。そのまま出勤すれば買うのはひんしゅくだけだ。たとえ遅刻しようとも引き返して、しっかりシャワーを浴びるしかない。
たまに反対側から来るエクスプレスボートから波をかぶりそうになることがある。その時のタイ人の団結ぶりは見事だ。きれい好きなタイ人らしく、右舷側の乗客はこぞって波防止用の幕をさっと引き上げる。
メナム川には観光船が就航しているが、セーンセープ運河のエクスプレスボートは庶民の足となっているものだ。それに乗るだけで、タイ人の清潔感や団結心が垣間見えてくる。(T)