
新緑が山々を駆け上がり、『智恵子抄』で知られる福島県の安達太良(あだたら)山も夏の身形を整えてきた。麓の大玉村では田植えも終わり、青空を映し出していた水田は青色よりも若苗色が勝っている。そこに住む知人に話を聞いた。
民放テレビの人気番組のプロジェクト「DASH村」の開墾田もあり、ご存じの方もおられよう。村の人口は8900人。60年以上も前の昭和35年とほぼ同数で変わらない。子供(14歳以下人口)の割合は県内トップの14・7%(全国11・3%)。話題になった「消滅可能性自治体」とも無縁である。
近隣の産業都市、郡山市の広域圏に位置する地の利もあるが、自然や伝統との心地よい関わりが人を呼ぶ。正月は松飾りを送るサイの神、春は田植え踊りに神楽奉納、夏は盆踊りに花火大会、秋には村の鎮守の祭り。
知人も移住した一人である。村に溶け込むきっかけは、赤ちゃんの公園デビューだったという。ご近所さんが何かと声を掛け、助けてくれる。子供が成長すると保育園や小学校の運動会、神社の子供祭りと関わりが広がり、親同士や住民の仲も深まっていく。
「『子はかすがい』というのは夫婦の仲だけでなく、地域の縁にも当てはまるように思います」。親が子育てしているようだが、実は親の方が育てられていた。
大玉村は「大いなる田舎」を標榜(ひょうぼう)する。DASH村では田圃(たんぼ)しか映らないのがちょっと寂しい。「消滅」克服のヒントは田舎にありそうだ。