
万葉歌人の山部赤人が旅の途中、田子の浦の海浜から富士山を愛(め)でた「田子の浦ゆ うち出てみれば真白にぞ 富士の高嶺に雪はふりける」の歌はあまりに有名。一方、地元民が富士山周辺を歌った東歌も少なくない。
隣村の恋人に会いに行くのに通過する裾野の広さにうんざり、と吐露する歌もある。やっかいな山だというわけだ。風光明媚(めいび)なわが国土の(今で言う)観光と生活の場の二面性が既に表れている。
世界遺産でもある富士山の登山者が急増しており、山梨県は2000円の通行料を義務付け、同県側登山道(吉田ルート)の5合目を通過するための事前予約を本日から開始する。登山道の混雑や一気に頂上を目指す弾丸登山の解消のため。
この山梨独自の入山規制導入で登山者の一部は静岡県側にシフトするとみられ、その調整もおいおい必要になるだろう。通行料は、登山口に設けるゲートの運営や噴石・落石用シェルターの整備など安全対策の経費にも充てる。
住民たちの憂慮は、景観の悪化や大量のゴミ、道路の混雑や排ガス、山道で寝たり、たき火をしたりするマナー違反など。オーバーツーリズム(観光公害)は観光立国の宿命とも言えるが、富士登山の場合は広範囲だ。
今、全国的に過疎地が増え各地の産業力が低下している。地域再興のため、エコツアーなどを含め人々を呼び込める観光地づくりを検討しているところも少なくない。富士山の入山規制措置の今後が注目される。