
5月は木の花々が次々咲いて、時の過ぎゆく速さを感じさせる。ヤマボウシ、タニウツギ、マユミ、ホオノキ、フジなど、山野は花々で賑(にぎ)やかだ。
東京八王子市にある高尾山の小仏峠に登る山道でのこと。そこで見たフジは巨木に巻き付いて梢(こずえ)まで枝を紫色に染めて、樹木全体が花のようだった。
庭園で見るフジは棚づくりで、垂れ下がる花の穂を見せようとするもの。美しい花穂が並ぶさまは圧巻だ。そして見ているうちに、このボリュームなら天ぷらにして食べてみたらおいしいにちがいないと思ってしまう。
日本の古い植物図鑑、貝原益軒(えきけん)の編集した『大和本草』には、「葉若き時、食うべし」とあるそうで、日本人は若葉をゆでて食べていたようだ。
かつて韓国版の映画「リトル・フォレスト春夏秋冬」を見ていたら、若い女性がフジの花を天ぷらにして食べているシーンが出てきて、やっぱり、と共感した。この映画は農村の四季がテーマで、田舎に戻って来た若者たちが料理を作り、食べることを中心に作っている。
原作は五十嵐大介さんの漫画で、日本版映画では東北地方が舞台。日本版は見ていないが、こっちにもフジの花が出てきておかしくはない。
フジは極めて日本的な花だが、中国、朝鮮、北アメリカにも自生している。地元の緑化センターには初夏の苗木が並んでいるが、ここで見たのはアメリカフジ。小さくてかわいらしかった。
(岳)