Homeコラム【上昇気流】(2024年5月16日)

【上昇気流】(2024年5月16日)

太宰治(Wikipediaより)

東京のJR三鷹駅南口に三鷹市美術ギャラリーがある。その一室が太宰治展示室で、2020年12月にオープン。この町に住んでいた太宰の家の内部がそのまま再現されて、家庭人として生きた姿を見せてくれる。

先月始まった企画展示は「太宰文学と美術のまじわり」(8月18日まで)。太宰は小説だけでなく、絵も描いていた。美術への関心は学生時代から深かった。その絵画が友人たちの作品と共に展示されている。

太宰の家には絵画の道具など、何もなかったという。描いたのは友人のアトリエであり、戦後は三鷹駅前に住む画家、桜井浜江のアトリエだった。この女性は太宰の作品「饗応夫人」に登場する。

彼女の夫は太宰の東大時代の同級生で、学生時代からの友人。三鷹で再会すると、太宰は編集者や仲間を連れてよくアトリエを訪ねた。近くの屋台で仲間と飲んでから押し寄せるのだ。

「貸してくださいも何もなく、私が描いている筆を取り、絵をかきはじめるといった具合」。出来上がるとそのまま置いて、みんなを連れて帰ってしまう。これは桜井の談話だ(「グラフみたか」第11号、三鷹市)。

人物画が多く、一目で、後期印象派から生まれたフォーヴィズムによる手法だと分かる。野獣派と訳されるように大胆な筆遣いと異常な色彩に特徴がある。それによって太宰の激しい情念がストレートに伝わってくる。「私より絵の才能がある」と桜井は語り、絵を大切に保管していた。

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