【上昇気流】(2024年4月19日)

「目には青葉山ほととぎす初鰹(はつがつお)」(山口素堂)の季節となった。暖かい外洋に生息するカツオはこの季節、黒潮に乗って北上してくる。別名「上り鰹」ともいい、秋に宮城県沖に達して冷たい親潮とぶつかり、Uターンしてくるのを「戻り鰹」というのは、よく知られている。

初鰹は身が引き締まり、さっぱりした味なのに対し、戻り鰹は脂が乗っている。どちらを好むかは人それぞれだが、江戸っ子は圧倒的に初鰹を好んだ。もともと江戸っ子には初物好みがあり、初物を食べると75日寿命が延びるなどと言われたが、初鰹は750日というのだから別格だ。

味覚的にも、さっぱりした初鰹の方が江戸っ子の好みに合っていたのだろう。高知県の鮮魚店のブログには、今年の初鰹は例年より脂の乗りが強めの傾向にあると書かれている。

加納喜光(よしみつ)著『魚偏(うおへん)漢字の話』(中公文庫)によると、カツオは『古事記』や『万葉集』に「堅魚」の表記で登場する。昔は鰹を鰹節のように固くして食べた。そのカタウオ(堅魚)がカツオ(鰹)になったとするのが通説という。

中国にも「鰹(けん)」の字はあるが、カツオとは全く別の淡水魚。加納氏は「鰹は堅魚を合わせた和製漢字と見るべきで、偶然に中国の鰹と字形が一致したに過ぎない」と述べている。

現代の中国ではカツオに「鰹」の字を当てているという。魚偏の和製漢字(国字)が多いのは、日本人がいかに多くの魚を食べてきたかの証しである。

spot_img
Google Translate »