
警察は昨年、虐待の疑いで児童相談所に通告した子供の数が初めて12万人を超えたという。このニュースを聞いてかつて取材した小児科医(女性)の話を思い出した。「自分が生んだ赤ちゃんを『可愛(かわい)いと思えない』と苦しむ若い母親が増えている」
女性は出産すると、ホルモンバランスの変化で母性のスイッチが入り自然に赤ちゃんを可愛く感じるようになる――男の筆者には実感としては分からないがこれが生き物としてのメカニズムだろうと考えていた。しかし、何かの理由で、出産しても母性のスイッチが入らない場合はあるとはいえ、そうした例は少ないはず。現在、そうした女性が増えるとは、どういうことか。
3月31日、NHKラジオ「子ども科学電話相談」を聞いていたら、この疑問を解くヒントになる話が流れてきた。この日の出演者(回答者)の一人、小菅正夫氏は旭川市の旭山動物園で、日本で初めてホッキョクグマの繁殖に成功した時の話を披露した。
ホッキョクグマの繁殖は非常に難しい。当初は出産しても赤ちゃんを食べてしまったり、子育てしなかったりして失敗した。原因を探ると、問題は巣穴の環境だった。野生の巣穴は温かいのに、動物園のそれは寒かった。繁殖期の11月から12月、北極は太陽が昇らない上、無音の世界。だから、動物園の巣穴に床暖房を入れて暗くし、音も入らないようにした。そうしたら見事、繁殖に成功した。考えてみれば、メスが安心して出産・子育てできる環境でなければ繁殖しないのは当然の話だ。
人間も生き物。ならば、安心して子育てできる環境でないと、出産しても母性のスイッチが入りにくくなるはず。もちろん夫の愛情は欠かせない。現金支給は、子育ての不安を少し軽減するが、本質的な解決策は女性を取り巻く環境を整えること。地方移住を考える若者が増えることは、少子化の流れを変える重要ポイントではないか。
(森)