【羅針盤】座談会 ウクライナ戦争と日本の教訓(上) リーダーを先頭に徹底した抗戦意志 備蓄・国民防護へ継戦能力増大を

本紙コラム「羅針盤」では毎週、安全保障、国際、社会問題等で日本の進むべき道を説いている。今回、その筆者である有識者の遠望子、呑舟、遊楽人3氏が一堂に会し、ロシアのウクライナ侵攻2周年に当たり日本の教訓と課題を提示する。(司会=黒木正博・本社顧問論説担当)

――ウクライナ戦争は3年目に入っているが、収束の見通しが立っていない。この段階でどう日本の教訓として受け止めているか。

遠望子 自らの国を自らが守るというのは、自衛隊が守るのではなく、国のリーダーが先頭に立って国民全員で守るというのが原点だ。そうした国民的合意が日本にあるのかがまず問われている。

ウクライナがなぜこうした状況に陥ったかについては、やはりNATO(北大西洋条約機構)に入っていなかったことが大きい。NATOに匹敵するようなものは今アジア地域にはない。日米、米韓、米比といった個々の同盟があるだけだ。米豪英3カ国によるAUKUSの軍事同盟関係はあるが、地域全体としてはバラバラで不十分だ。ウクライナの場合は、まだNATOが肩入れできる態勢があるが、日本の場合は台湾有事や朝鮮半島有事でもバラバラだ。いま米国単独では中国に対抗し切れないので同盟国をまとめる方向に動いている。東アジアのNATO版を形成するとなると、日本は憲法的制約で動きにくいのが問題だ。

遊楽人 驚かされるのは、戦争が始まった当初から軍事力は圧倒的にロシアが優勢と言われたのに対し、曲がりなりにも膠着(こうちゃく)状態に持ち込んでいることだ。西側の支援次第だが、領土を取り返すことはできなくても、あと1、2年は膠着状態を維持できるだろう。これは従来の陸戦の定石からすると考えられない。その粘りはすごい。その要因はウクライナ国民の強烈な抗戦意志だ。リーダーであるゼレンスキー大統領のカリスマ性、国民をまとめる抵抗意志が際立っていたと感じる。

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呑舟 まず大きいのは、ウクライナが以前クリミア半島を取られた時、それを繰り返さないよう国民に認識させ、国を挙げて防衛力を整えてきたことだ。ロシアはそれを考えていなかった。だからサイバー攻撃もできず、クリミアの時のようにうまくいかなかった。日本の場合、平和憲法と言えば国を守れるというような一部野党そしてメディアがひどい。きちんと過去にあったことを国民に教えないといけないという点が、ウクライナを見ていて痛感する。

遊楽人 注目すべきは、ウクライナの場合、ロシアによるサイバー攻撃を多用するハイブリッド作戦やいろいろな偽情報が入り乱れる中で、迅速に国際世論の支持を獲得できたことだ。あれほど全面的に国家的インフラをロシアの攻撃にさらされたが、核心的なところは生き残っており、産業基盤も技術基盤も維持できた。継戦能力を維持できたというのは非常に大きい。その大きな背景としては、特に西側の宇宙戦支援だ。ウクライナの通信インフラはほとんど破壊されたが、西側の衛星を使ったインターネットも全部維持でき、一般国民もたくさん利用できているというのは非常に大きい。さらにこの戦争で特徴的なのは、世界で初めて大々的に無人機を多用する戦いになった。ほとんど海軍を持たないウクライナが近海の制海権を取ったに等しいような成果を収めているというのは驚きに値する。

――ウクライナの徹底した抗戦姿勢に加え、戦争・紛争形態が長期化する様相が深まってきている。日本は島国という戦略的特性はあるが、この点については。

遠望子 戦争長期化の一つの原因は、ロシアが核の使用をちらつかせ、バイデン米大統領をはじめとするNATO諸国がこれを恐れて武器弾薬輸出を制限したことにある。だからウクライナは勝てる戦争をすることができず、負けない戦争を2年以上強いられてきた背景がある。国際関係のさまざまなしがらみで、いったん戦争が勃発すると簡単に終わらず長期化する。戦争が長期化すると、日本は継戦能力どころか、そもそも戦う体力が弱い。まず武器はあっても弾薬が足らない。その備蓄レベルは極めて低い。後方に備える予備兵力も薄弱だ。

呑舟 日本は周辺や関連する諸国が欧州と全然違う。日本は島国で海上交通路(シーレーン)が危うくなった場合について政治家は全く触れない。武器だけでなく糧食がなかったら2年間も続かない。東日本大震災の時に、「東日本」というネーミングが先行してしまい、東京から北の半分が原発の放射能で汚染されているのではないかということで、静岡・伊東沖で一時多くのタンカーが止まった。もしタンカーが止まれば3カ月で日本は糧食からエネルギーから何もなくなる。備蓄もない。陸海空自衛隊は年度予算だから燃料の備蓄はなく、1年分の燃料があるだけだ。そういうことを国民は誰も知らない。

遠望人 例えば日本には予備自衛官がいるではないかというが、他国の予備役制度とは言葉は似ているが、内実は全く異なる。現行の5万人程度の予備自衛官制度ではカバーする組織、機能分野、階級構成と人員規模は極めて狭小で限界がある。海外では民間パイロットが予備役に対応している。このため普段は旅客機に乗りながら一定の訓練として戦闘機にも乗る。航空自衛隊にはそうしたパイロットがいない。

防衛力の中核は人であり、先端兵器システムを運用するのは隊員だ。有事となれば過酷な戦闘にシフト勤務体制を要し、また多数の戦死者、重傷者が生じる。これに対応する有事の人員所要と補充対応策について言及がない。有事動員を論ずることは避けて通れない問題だ。

遊楽人 専守防衛という基本政策の見直しが不可欠だ。現状では、国民を護(まも)るシェルターもなく、十分な武器もなく、弾薬補給などとてもできるものではない。横綱が幼児を相手に戦うのであれば専守防衛でいいのだろう。しかし、撃たれるまで撃ってはいけない、まずやられるのを待って反撃しろということでは敗北主義もいいところだ。それをまず是正していかないと何も始まらない。このままでは何かあったときに最善と思うところを超法規的に指揮官の決心でやらざるを得ない。それで決心した指揮官が処罰されるのではなく、戦いが終わったら現行法では指揮官に従った隊員が処罰されかねない。

呑舟 先日、イージス艦あたご衝突事故の裁判は無罪だった。艦長は全部自分が責任を取るというが、日本の刑法では船を実際に動かしていた担当者が処分される。こうした組織では、指揮官が撃てと言っても「いや、撃つ私が処分されますから艦長がここで撃ってください」と拒む自衛隊員が出てきてもおかしくない。有事の際の超法規的措置を唱えた栗栖弘臣(くりすひろおみ)元統幕議長が処分された当時とまったく変わっていない。

((下)は20日付)


AUKUS(オーカス) 2021年に発足した米国、英国、オーストラリア3国間の軍事同盟。事実上、インド太平洋地域における中国の軍事的進出に対抗する狙いがある。これによりオーストラリアは原子力潜水艦をはじめとする海軍力の強化を進めている。

予備自衛官制度 1954年の発足。員数は4万7900人(うち陸上自衛隊が4万6000人)。予備自衛官、即応予備自衛官はいずれも防衛招集命令などを受けて自衛官となるが、予備の方は後方支援、基地警備などの要員、即応は第一線部隊の一員として現職自衛官とともに任務に就く(ただし即応予備自衛官制度は他国の予備役に近いが、陸自のみで海空にはなく、パイロットも含まれていない)。

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