安倍派の幹部をはじめ自民党議員39人を処分し、岸田文雄首相みずからは処分なく、4月の初旬に一旦の区切りをつけた政治資金規正法違反の問題。派閥会計責任者による報告不記載という形式犯の問題は、派閥の機能すら麻痺させながら半年近くずるずると長引いている。今日なお真相解明に至らぬと、争点として強調し続ける向きもあるほどだ。
政府では首相、党では総裁という日本政治の最高権力者として、岸田氏は政治に対する国民の信頼を矜持としてきたはずだ。だが政権および自民党への支持率の推移が示す通り、それは長期間にわたり地に落ちたままだ。岸田氏が招き、引きずるこの間の政治不信の長期化は、まさに多大な国益の毀損と断じざるを得ない。
自らを処分せず、すなわち党総裁と首相の座から降板しなかったからこそ実現した国賓待遇での訪米。これを政権浮揚への機会うんぬんと述べるベテラン政治評論家は的外れではないか。長期間にわたり国民に支持されない首相が、外交の場で意義あるパフォーマンスを発揮するなど米国が許す道理がない。岸田夫妻が米国に降り立った空港で出迎えたのが、エマニュエル駐日米大使であったことは、そこからの移動の道中で岸田氏との新鮮な情報交換、戦略的な人脈づくりを指名される高官が不在だったことも示唆する。
岸田氏訪米では、自衛隊基地、さらには日本の空港や港湾の日米共同使用への手続き簡素化にも合意した。日本を取り巻く安全保障環境の緊迫度が増す中、機動的対応の向上に必要な措置だが、対米従属の外交姿勢のもとで、閣議決定すら省いていく方針という。丁寧な国内手続きと説明の根回しを欠けば、ただでさえ米軍基地問題や安全保障政策をめぐって国政との疎通に難のある沖縄県、また同県の主要メディアによる県民への扇動的批判も免れまい。
岸田内閣ではわが国のエネルギーの安定確保という、これまた重要な政策における脆弱な体制も最近露わになった。複数省庁にまたがって規制改革担当相のもとで推進された再生エネルギー政策が、特定の外国勢力の影響を受けて行われてきたのではないかとの疑念を抱かせる事件が発生したのだ。
他方、経済安保担当の女性大臣のもとで、セキュリティ・クリアランス制度の創設に向けた法案が衆院を通過したとの画期的なニュースも注意を引く。女性といえば、来る9月に行われる自民党次期総裁選では3年前の前回以上に初の女性の就任をという声も強い。女性の政治リーダーへの期待は、政治資金問題が、不記載という形式犯以上に、外国人パーティー券購入問題こそ重大と国会で明確に指摘した女性議員によっても国民に啓発された。
権力を握ってもそれを国益の増進に向けて行使できるのか、自己保身により結果として権力を国益の毀損に用いてしまうのか、国民は正しい政治リーダーが誰なのかを、その実績から選挙を通じて賢明に選んでいかねばならない。(駿馬)