トップコラム【上昇気流】(2024年4月6日)

【上昇気流】(2024年4月6日)

今年の桜は開花が遅い。半世紀前の水準に戻ったみたいだ。それでも、自然が決めるのだから仕方がない。東北では弘前(青森県)の桜が「本州では一番遅い」とされている。が、「一番遅いのは遠野」と遠野(岩手県)在住の人から聞いたことがある。それほど遠野は寒い。外出しにくい冬、家の中で物語をしゃべったり聞いたりした。『遠野物語』もそんな中から生まれたのだろう。

「まさをなる空よりしだれ桜かな」(富安風生)。「まさを」は「真っ青」のことだろう。「高遠(たかとお)の絵島(えじま)の寺の櫻かな」(久保田万太郎)というのもある。

正徳4(1714)年の大奥スキャンダルに巻き込まれて、大奥御年寄の絵島が高遠(長野県)へ流された。地位は御年寄だが、年齢は34歳。江戸育ちの彼女にとっては辛(つら)過ぎる処分だった。以後27年、61歳の時、高遠の地で亡くなった。

絵島も悲惨だが、戦艦大和の乗員はもっと悲惨だ。吉田満著『戦艦大和の最期』(昭和27年刊)によれば、昭和20年4月5日の記事に「訓練休憩中、『桜、桜』と叫ぶ声、見れば三番見張員なり」とある。

大和は沖縄に向けて進撃中。吉田も先を争って見張り用の双眼鏡を覗(のぞ)いて、花びらの一枚一枚を眼底に焼き付けた。「桜、内地の桜、さようなら」と彼は記している。

乗員の多くにとっては、これが「最後の桜」となった。吉田は辛うじて生還し、貴重な記録を残した。これも花見には違いないが、凄絶(せいぜつ)過ぎる花見だった。

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