【上昇気流】(2024年3月23日)

安保騒動(Wikipediaより)

このほど刊行された『大江健三郎 江藤淳 全対話』(中央公論新社)の中に、安保騒動さなかの1960年に行われた対談が収録されている。大江は25歳、江藤は28歳。互いに恐ろしく若い。

対談の冒頭部分で大江が「岸首相を監禁して引退に追い込む」という空想・妄想を語っているのが目を引いた。「ただし、殺害はよろしくない」とも続ける。

公開が前提の対談である以上、冗談のように言っているに決まっているのだが、「冗談の中に本音が含まれる」場合もある。空想・夢想の類いではあっても、日米安保条約改定に対する強い憎悪が感じ取れるからだ。今から思えば滑稽でもあるのだが、その頃は国民の一部にそういう風潮があった時代でもあった。

現実の政治の成り行きを見れば、岸信介首相は新安保条約発効後辞任した。政治目標を果たした上での自身の判断による辞任だ。60年11月の総選挙では、池田勇人首相率いる与党が圧勝した。騒動があっても国民は冷静な判断を下した。

安保騒動は戦後史に残る重要な事件には違いないが、今から振り返れば、当時言われたほどのインパクトを持つものではなかった。対談の大江発言が、夢想・妄想にしか見えないのも当然のことだ。

対談で大江は「安保騒動に関してはリアリズムよりもデマゴーグ(民衆扇動)が必要」とも叫んでいる。60年以上も昔のことではあっても、政治をリアリズムで見ないで扇動を叫ぶのは、控え目に言っても異様で奇怪だ。

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