ロシアの一方的な侵略で始まったウクライナ戦争が3年目に突入した。突然の侵攻に、わが国でも「今日のウクライナは明日の台湾。台湾有事は日本有事」と警戒心、安保意識の高まりが見られたが、この2年の間に常態視し、危機意識が薄れてないかと危惧する。なぜ極めて悪辣(あくらつ)な侵略を許したのか?
ロシアは、2008年のグルジア侵攻成功に続き、14年にはロシア系住民保護を理由にロシア軍がクリミアに進駐し、住民投票を盾にロシアに併合した。
この成功体験の延長線上に今次のウクライナ侵略があったと言える。14年当時に今次の国民の強い国防意識、激しい抵抗に国際支援が展開されていればロシア軍は侵略を思いとどまったであろう。
また、ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟を果たせず、集団的自衛権による戦争抑止力が働かなかった。戦争抑止力とは敵性国家の侵攻・戦争意思を未然に断念させる作用力であって、敵性国家に「戦争目的の達成は困難、コスパが高い」と判断、認識させる当該国の総合的な戦争拒否力、戦争を起こさせない力と言える。
近年の中国、北朝鮮、ロシアの脅威の厳しさを背景にわが政府もようやく重い腰を上げて、22年12月に安保戦略3文書(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)を策定した。脅威対向型の防衛力整備へ、防衛費のGDP2%に倍増 、反撃力の保有など防衛力の抜本的強化に踏み切った決断と方向性は抑止力を高める上に心強い。しかし、抑止力を弱めている国防上の根本的な問題点がある。
憲法改正を忌避している点である。抑止力とは物理的な防衛力、報復攻撃力にとどまらず、その前に必須な要件は、国家としての国民、領土を守る強固な決意である。
多くの国では憲法に国家防衛の理念と防衛体制が明示されているが、わが国の憲法にはその言及がない。「国民の国を守る理念と国家防衛に任ずる自衛隊の憲法への明記」を一日も早く実現しなければならない。憲法改正こそ最も効果的な抑止力強化策である。
次には有事動員を忌避している点である。防衛力の中核は人であり、先端兵器システムを運用するのは隊員である。有事となれば過酷な戦闘にシフト勤務体制を要し、また多数の戦死者、重傷者が生じる。これに対応する有事の人員所要と補充対応策について言及がない。
諸外国軍隊の予備役制度と似て非なる現行の6万人弱の予備自衛官制度ではカバーする組織、機能分野、階級構成と人員規模は極めて狭小で限界がある。有事動員を論ずることは避けて通れない問題である。
抑止力の構築、防衛力の整備には国民的コンセンサスに基づく多大な資源投入と時間を必要とする。しかし、日本は歴史的に態勢整備が遅れても始めたら着々と実現して来た伝統がある。早急に問題解決に取り組み抑止力を高めてもらいたい。(遠望子)