能登半島地震で日本の漆芸の代表、輪島塗が大きな打撃を受けた。輪島塗は完成までに124もの工程を経、各工程が専門の職人に分業化されている。
そのほとんどの工房が被災し、職人の多くも被災した。
漆は空気中の水分を吸って固まる性質をもっているため、湿度の高い日本とくに日本海側で漆芸が発展した。
なかでも輪島塗の第一の特長は、その堅牢(けんろう)さにある。それを作り出しているのが、江戸時代に発明された「地(じ)の粉(こ)」と呼ばれる技術だ。
能登地方に多い珪藻土(けいそうど)に漆を混ぜたものを下地に塗るのである。
「能登は優しや土までも」という言葉がある。土までも優しいというのは、一種の比喩だが、実際にそうも見える。
能登とくに内浦の海岸風景を造っているのは珪藻土と呼ばれる優しい土である。ごつごつした岩ではなく、それが造る断崖もケーキを切ったような形をしている。珠洲(すず)市の見附島などがその典型である。
その優しい土が漆に混ぜられて、堅牢優美な輪島塗を作り出すところに伝統工芸技術の妙味があるといえよう。
輪島塗の職人たちは、いま金沢などの仮工房で仕事を再開しつつあるが、異口同音に、そのうち必ず輪島に帰って制作すると語っている。
その歴史を考えても、輪島塗はやはり輪島の風土と切り離せない。
(晋)