
「僕の歌は、皆すぐに覚えてしまうから楽譜を買う必要がない。だからいつも文無しなんだ」――。この台詞(せりふ)は、オペレッタ「シューベルトの青春 三人姉妹の家」の中で、この作曲家自身が打ち明けた言葉だ。
東京の北とぴあで、日本オペレッタ協会による上演を観(み)せてもらった。「野ばら」「アベ・マリア」などシューベルトの名曲がふんだんに登場し、気弱で、優しく、傷つきやすい彼の人物像を浮かび上がらせた。
1916年にウィーンで初演され、5年間で約8000回という大ヒット。日本で日本オペレッタ協会が初演したのは96年で、13年間で約130回もの上演をし、名歌役者たちを輩出してきた。
物語はシューベルトがチェル家の3姉妹の長女、ハンネルからレッスンを依頼され、淡い恋心を抱くようになり、「セレナーデ」を捧(ささ)げるが、誤解の渦に巻き込まれて恋は破れる。
指揮は珠川秀夫さんで、演出は川端槇二さん。シューベルト役のテノール小野口基さんは初主演。シューベルトそっくりの風貌で、寂しがり屋を演じた。川端さんはその歌と演技を「忘れられない公演になるだろう」と称(たた)えた。
日本オペレッタ協会を設立し、西洋の歌芝居を日本人に親しめるようにと、工夫に工夫を凝らして創り上げたのが、昨年亡くなった演出家の寺崎裕則さんだ。寺崎さんは、彼の孤独こそが「音楽の根っこ、源泉」で、そこから生み出される音楽を、仲間は「楽しみに待っていた」という。