【上昇気流】(2024年2月8日)

「このわたしは自分がまさに死のうとする時、自分を人間の老女と思っているかあやしいと思う。熊だと信じて死ぬかもしれないなぁ」――。童話作家の神沢利子さんの言葉だ。

82歳の時に刊行した『同じうたをうたい続けて』(晶文社)に出てくる。神沢さんには独特の習性があって、大きな室内靴をもらった時には熊に、風呂で息をつく時には海豹(あざらし)に成り切るという。

今年の1月29日で、100歳の誕生日を迎えた。地元の東京都三鷹市ではこれを記念して「神沢利子さん おめでとう100歳展」が芸術文化センターで開催され、直筆原稿や挿絵原画が展示された。

原稿の文字は読みやすく、ふくよかで温かい。著書は300冊に上るという。『神沢利子コレクション』全5巻(あかね書房)で路傍の石文学賞を受賞した時、インタビューさせてもらった。

童話の中にクマやウサギやトナカイなどたくさんの動物たちが登場する。その源泉になったのは、5歳の時から12歳まで過ごした樺太での体験だったそうだ。それを主題にしたのが『流れのほとり』。

「子供の文学は、大人が子供の心にならなければならない。だからいつも自分が子供の頃をどう感じたかを生き生きと感じていなければならないわけです」と語り、その時期のことをしょっちゅう振り返って「自分の中の子供と対話しているのです」。神沢さんの家の近所には山本有三記念館や太宰治の旧居跡もある。三鷹は文学の街なのだ。

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