「ガ・ハノイ」と書かれたハノイ駅前は、東京駅や梅田駅などを連想すると肩透かしを食うほど閑散としている。
構内では小学生2人がバドミントンに興じていた。路地裏のでこぼこ道とは違いタイル張りの床だから都合がいいらしい。そうした子供を誰も見とがめることがないほど、人通りがない。
だが、裏手に回ると、様相は一変していた。線路脇の通路に人だかりができ、オープンカフェも十数軒連なり呼び込み屋もいてお祭りの喧騒(けんそう)がここにはある。
表玄関には見向きもしないで、駅の裏手が人気を博しているのは線路すれすれの通路やカフェから電車が見られるからだ。よほど、人気スポットなのか中にはドレスを着飾って、ウエディングフォトのロケ地にしているカップルも見掛けた。カップルは1㍍の線路の中に椅子を二つ置いて座りポーズを取っている。
世界の観光地には道路を自由に歩ける歩行者天国は多いが、線路内を自由に歩けるというのはあまりないはず。ただ自由というのは言い過ぎで、人々が勝手に自由に振る舞っているだけだ。
ハノイ市は5年前、観光客の線路脇立ち入りを禁止するとともに、違法カフェに罰金を科し営業禁止の通達を出している。線路から左右5㍍以内は鉄道制限区域とされている条例を盾にとったが、静かだったのは1、2カ月だけ。3カ月もすると元の喧騒が戻ったとされる。少しだけお上の顔を立てて静かにするが、それが過ぎると勝手に振る舞う庶民パワーがベトナムには存在する。(T)