
晩婚・晩産化により、体外受精を受ける人が増えている。2022年度から、不妊治療が保険適用になったことが大きい。
治療開始時点で40歳未満なら、通算6回。40歳から43歳未満なら、通算3回まで保険適用となる。
同制度への期待感からか、日本産科婦人科学会の発表では、制度施行前の21年の体外受精による出生数は過去最多の6万9797人となった。前年より9416人も増えた。
11・6人に1人が体外受精で生まれたことになる。今後、不妊治療の受診希望は大幅に増えると見込まれ、少子化に貢献していると言えそうだ。
ただ、日本では不妊治療による妊娠率・出生率はかなり低く、現実は厳しい道である。同学会によると35歳を過ぎると妊娠率・出生率ともに急速に低下、流産率が上昇していく。不妊治療を受けても、40歳を過ぎると妊娠率は30%以下、出生率に至っては10%以下。狭き門である。
日本の問題点は、妊孕(にんよう)率が低い40歳を過ぎての治療件数が最も多いことである。アメリカなどは35歳未満の治療件数の割合が最も高く、日本より10ポイント以上も上回っている。
保険適用になったことで今まで諦めていた人が不妊治療を受け、子供を授かることができればすべての苦労が報われる。しかし、不妊治療は想像以上に心身への負担、生活への影響が大きい。ジャーナリスト河合蘭著『出生前診断』を読めば、命の選別という精神的重圧、不安感、葛藤は想像以上だ。
制度施行から1年10カ月。不妊治療を受けやすくなったとはいえ、卵子・精子の老化という現実は変わらない。早い年齢で治療開始を決断してこそ、同制度は活(い)きてくる。
40歳を超えても大丈夫といった生殖技術への過度な期待と誤解が広がらないことを願う。
(光)