【上昇気流】(2024年1月27日)

温泉

かつて「温泉政治」というものがあった。温泉に浸かりながら閣僚人事などを話し合うわけではなく、温泉地の旅館やホテル、別荘などで重要な政治決定を下す習慣があったようだ。

原武史著『戦後政治と温泉』(中央公論新社・1月刊)によれば、温泉政治の起源は吉田茂のようだ。吉田はワンマンでマスコミ嫌いの人物として知られる。戦後初期、実力者として永田町の頂点にいた。

「吉田のところへ箱根参りをしないと不安だ」と言う政治家がいたことが当時の新聞記事で分かる。吉田から「箱根に来てくれ」という依頼があったので、往復5時間かけて箱根に行った参議院議長が、15分の対面で追い返されたこともあった。

三権の長として首相の吉田と同格の参議院議長が、秘書官並みの扱いを受けたことになる。半面、厳しい評価をされても、吉田の政治的実力が全てという歴史的事実は認めないわけにはいかない。

昨今は、温泉政治を良しとしない風潮がある。東京都知事が公用車で頻繁に湯河原の別荘を訪れていたことなどで批判を浴び、知事を辞職した話も記憶に新しい。吉田の全盛期から60年以上たった現在では、温泉政治には違和感があるということなのだろう。

が、著者は「温泉政治=悪」とは言い切れないと強調する。ドイツの社会学者マックス・ウェーバーは、人と人との「距離感」の重要さを指摘した。東京の喧騒から距離を置くことはむしろ有効という著者の見解には一理ある。

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