【上昇気流】(2024年1月23日)

大雪

「国境の長いトンネルを抜けると雪国であつた。夜の底が白くなつた」――。川端康成の名作『雪国』の有名な冒頭部分である。これに似た書き出しが『雪国』の10年前に発表された瀧井孝作の『無限抱擁』にある。

「浅川駅よりトンネルもなくなり空は夜明けであつた」。川端はこの作品を「座右から離すことはなかつた」と絶賛する文章を読売新聞に載せている。十重田裕一氏は『川端康成――孤独を駆ける』(岩波新書)の中で、『雪国』の冒頭は川端の幅広い読書体験から生まれたものと指摘している。

ちょうど今頃の季節、東京から上越新幹線や関越自動車道を使って大清水トンネルや関越トンネルを抜けた途端、風景が一変するのに驚いた経験を持つ人は多いだろう。北関東の乾燥し晴れ渡った景色が、曇り空の下の雪景色になるのである。

川端の名文は、近代日本文学の経験の蓄積の中で生まれたものであることは間違いない。ただ、風景の鮮やかな変化への驚きと感動もあった。

能登半島地震発生から3週間余りが過ぎ、ライフラインは徐々に復旧しつつある。一方、北陸はきょうから大雪の予報が出ている。能登地方では、地震で被害を受けた家屋が積雪のために潰(つぶ)れる恐れがあると、気象庁は注意を呼び掛けている。

この季節、太平洋側と日本海側の天候は、同じ国とは思えないくらい対照的だ。今も雪の中で避難生活を送る被災者や、支援や復旧に奮闘する人たちに思いを致したい。

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