トップコラム【上昇気流】(2024年1月20日)

【上昇気流】(2024年1月20日)

記者会見場で撮影に応じる(右から)芥川賞の九段理江さん、直木賞の河崎秋子さんと万城目学さん=1月17日午後、東京都内

第170回芥川賞・直木賞(日本文学振興会主催)の受賞作が発表された。今回は、芥川賞1作(九段理江さん)、直木賞が2作品(河﨑秋子さん、万城目学さん)選ばれた。注目されるのは、6度目の候補入りで栄冠をつかんだ万城目さんである。

芥川賞は新人賞という名目なので、候補に挙げられる回数が多くなると候補から外されていく傾向がある。それに対し、直木賞は実績と今後の活躍を見込んでのものなので、何度候補になっても受賞の可能性はある。ただ6度目となると、実績は認められても受賞には至らないことも多い。

ことわざにも「三度目の正直」があるが、6度目はそれを超えている。万城目さんも、最初に候補となってから17年も経(た)っていることを自虐を交えて会見でスピーチしている。作家としての実力は受賞しなくても変わらないはずだが、それでも格別なものがあるようだ。

芥川賞と直木賞の170回の歴史には、作家たちのさまざまなドラマがあった。太宰治が芥川賞を欲しがって選考委員の川端康成を批判するなど騒動を起こしたことは有名な話だ。

日中戦争中に芥川賞を「糞尿譚」で受賞したのは火野葦平(あしへい)だった。応召中だったので、戦場となった中国まで行って届けたのが文芸評論家の小林秀雄だったことはあまり知られていない。

受賞する人もいれば、落選する人もいる。万城目さんは敗者復活戦の勝者である。その意味で、勇気を与えてくれたと言っていい。

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