【上昇気流】(2024年1月9日)

新国立劇場

東京・国立劇場が建て替えのため閉場となり、恒例の尾上菊五郎劇団による新春歌舞伎は、新国立劇場中劇場での公演となった。目玉の一つは、尾上菊之助さんが梶原平三景時の初役に挑む「梶原平三誉石切(かじわらへいぞうほまれのいしきり)」。

石橋山の合戦で源頼朝を退けた平家方の景時が、頼朝は敗れたものの優れた器量があると見込み、頼朝方につくようになった経緯を、名刀の目利きに絡ませて語る。鎌倉鶴ヶ岡八幡の社頭で石の手水鉢を真っ二つに切るところが見せ場だ。

9代目市川團十郎が、源氏に寝返った梶原などやれぬと言ったのを、初代中村吉右衛門が演じて2代目吉右衛門が継承した。亡くなった2代目吉右衛門は、菊之助さんの岳父に当たる。令和4年3月には、2代目の当たり役「近江源氏先陣館―盛綱陣屋―」の佐々木盛綱の初役に挑んでいる。

2代目吉右衛門には男の子がなかった。初代以来の芸を娘婿の菊之助さんに託した面があるようだ。

菊之助さんはゆくゆくは菊五郎の名跡を継ぐとみられる。かつて6代目菊五郎と初代吉右衛門が並び立ち「菊吉時代」と呼ばれた。その二つの流れを継承するのだから、芸域がめきめきと広がっている。それだけに肩にかかる重みも大きいだろう。

本来歌舞伎公演を想定していない新国立中劇場では、花道が仮の物のため、やはり物足りない感じが否めない。それでも最後に「悪魔降服千代万歳、目出度(めでた)き御代ぞ祝しけり」と、新春にふさわしく一同揃(そろ)って舞い納めた。

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