
「ジークフリート・オデット・レダもまじれるや遠来の白鳥この沼に群る」。短歌誌「素馨」を主宰していた歌人、故石川恭子さんの詠んだ歌。飛来するハクチョウの数が日ごとに増えつつある季節だ。
バレエ「白鳥の湖」に登場する人物や、ギリシャ神話の中の女王が詠み込まれている。ハクチョウを神話の鳥と思って見てみると、その純粋な白さはいっそう高貴で、輝いて見えたようだ。
こうも詠む。「おほかたは雪野・氷海白鳥ら渡り来し数千キロを語れよ」。コハクチョウの場合、ユーラシア大陸北部のツンドラ地帯で繁殖し、北海道を経由して本州にやって来る。飛行距離は4000㌔に及ぶ。
晩秋の時期、ラムサール条約の登録湿地で新潟県阿賀野市にある瓢湖に見に行ったことがある。宿の人の話では「ハクチョウは朝に湖を飛び立ち、日中は近辺の田圃(たんぼ)で過ごし、夕方に戻って来ます」。
出会ったのは刈り入れの終わった広い田圃だった。数羽ずつまとまっていて、家族だと分かる。のんびりした時間を過ごしていたが、長旅の後だった。観光案内所では日ごと飛来数が示されていた。
福島県の裏磐梯、五色沼で出会ったのは積雪期。いくつもある沼の中のるり沼は、温泉が湧いていて、氷結せず、水をたたえていた。スノーシューを履いて行ってみると、コハクチョウの群れが猪苗代湖から遊びに来ていた。森に囲まれた静かな沼で、あたかも「白鳥の湖」の舞台のようだった。